東京大学中東地域研究センター UTCMES スルタン・カブース・グローバル中東研究寄付講座

UTCMES定例研究会の実施報告

第6回「ヨーロッパ国際政治史におけるアルバニア独立問題(1912-1914)」

報告者:馬場優(福岡女子大学)
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 2013年2月2日土曜日15:30-17:00に、駒場キャンパス18号館メディアラボ2にて、第6回定例研究会が行なわれました。
 以下に研究会の報告を掲載します。

 報告では、まず報告者がこれまで研究していたハプスブルク帝国外交におけるアルバニアの位置づけに言及した。ここでは、(1)オスマン帝国領アルバニアが、19世紀末期以降のハプスブルク帝国の外交にとって、対セルビア及び対イタリア政策において重要な位置を占めていたこと、(2)ハプスブルク帝国が、第一次バルカン戦争(1912-13年)において、セルビアのアドリア海への領土拡大を阻止するためにもアルバニアを分離・独立させることを外交方針と定め、ヨーロッパ諸大国とともにそれを実現しようとしたこと、(3)諸大国がアルバニア独立を決定したものの、具体的な国境線をめぐって墺露間に意見対立が生じたこと、(4)ハプスブルク帝国がアルバニアのために、1912年にはモンテネグロ、そして1913年にはセルビアに対して軍事行動をとることを検討していたことなどを紹介した。

 また、(3)に関連して、諸大国が決定した独立アルバニア国家に関する基本方針としては、アルバニアを諸大国が存在を保障する世襲制の君主国とすること、君主が就任するまでは、諸大国代表とアルバニア人代表からなる委員会が国家管理をおこなうこと、この委員会が中心となり国家に必要な法体系を構築すること、国内の治安維持のためにヨーロッパ小国の将校を指揮官とする憲兵隊を創設すること等があったことを付け加えた。

 つぎに、アルバニア独立問題に関して、この数年の間に出版された2冊の本を紹介した。1冊目は、イギリス人研究者N.ガイの(仮訳)『アルバニアの誕生』(Nicola Guy, The Birth of Albania, I.B.Tauris, 2012)である。ガイの問題関心は、アルバニア人ナショナリストの動きと大国間政治システムとの関係を解明することにあり、その際3つの時期(1912-14年、1914-19年、1920-26年)に区分し、独立問題を検討している。報告者は、第一次世界大戦以前のアルバニア問題では、「大国」のなかでもハプスブルク帝国とイタリアが最も関心を持っていたことを考えると、ガイがイギリスを中心に検討しているために、第一次世界大戦以前のアルバニア独立問題とヨーロッパ国際政治との関係が必ずしもクリアに説明できていないのではないかと指摘した。

 2冊目は、ドイツ人研究者のH.C.レーアの(仮訳)『アルバニア建国』(Hanns Christian Löhr, Die Gründung Albaniens, Peter Lang, 2010)である。レーアの問題関心は、1815年から1914年までのヨーロッパ国際関係の枠組みの中で、アルバニア独立問題というナショナル(=民族的)な問題に諸大国がどのように対応したかを解明することにある。そこで、彼はアルバニア問題をめぐっては、いわゆるヨーロッパ協調システムの破綻という現象を見てとれることを指摘する。これは、アルバニアの独立に関して、諸大国が小国を事実上排除する形で問題解決を進めるという旧来のスタイルを維持しようとし、それに対してバルカンの諸国家が強く反発したことに特徴的に現れた。なかでも、彼は、ギリシア政府が国内のナショナリズム勢力の動向に影響されていく過程を強調する。また、アルバニア建国をめぐる一連の諸大国の意見対立が、バルカン諸国のヨーロッパ協調軽視の姿勢をもたらしたことを指摘する。報告者は、彼の研究が1912年から14年までのアルバニア国家建設について非常に詳細な研究であることは高く評価するものの、彼の関心がドイツにあるために、アルバニアに最も利害関心のあったハプスブルク帝国とイタリアのアルバニア政策が明瞭に説明されていないことを指摘した。

 以上のことを踏まえ、報告者はアルバニア独立問題の今後の課題としては、ハプスブルク帝国の動向を中心とした、(1)前述の国家管理委員会の活動、(2)国境線画定、とくにギリシアとの国境線を画定する作業、(3)1914年2月以降の中部アルバニアで農民反乱への諸大国の対応があると述べた。また、ハプスブルク帝国との関連性は少ないが、(4)独立問題へのオスマン帝国の関与などが検討されるべきテーマとして存在するであろうと述べた。

 報告後の質疑応答では、参加者から、まず、ヨーロッパ諸大国が主導権を握る形でアルバニアを独立させたという報告に対して、19世紀から20世紀初頭において同様な方法で独立した中小独立国(例えば、1830年のベルギー)との比較の視点が必要ではないかとの意見が出た。つぎに、報告のなかで、アルバニア人ナショナリストの動向についてほとんど言及されていなかったことに違和感が感じられるとの意見がでた。さらに、報告の内容が第一次世界大戦勃発の時点で終わっているが、むしろ戦間期まで拡大して論じた方が良いのではないかとの意見も出た。
 
(執筆:馬場優)

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