東京大学大学院農学生命科学研究科土壌圏科学研究室

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研究内容

1水田土壌の自律的な窒素肥沃度維持を担う微生物メカニズムの解明と低窒素農業への応用(2017年~現在)(妹尾)
「稲は地力でとる」と古くから言われ、水田土壌には窒素肥沃度を自律的に維持する窒素変換が存在しています。窒素変換は土壌微生物が駆動していますが、肥沃度維持につながるメカニズムは不明でした。 私達は、メタゲノム・メタトランスクリプトームの手法を用いて水田土壌の窒素変換微生物を解析し、従来の手法では見逃されてきた鉄還元菌が窒素肥沃度維持に重要な役割を果たしている可能性を見出しました。 現在、土壌における鉄還元菌による窒素変換について詳細な解析を進めるとともに、窒素肥料を低減化した「低窒素農業技術」への応用を試みています。(画像はクリックで拡大)
2畑土壌における温室効果ガス発生・非発生の微生物メカニズム解明と削減技術の開発(妹尾)
温室効果ガスの一つである一酸化二窒素(N2O)ガスの大気中の濃度が近年急激に増加しています。 日本におけるN2Oガスの発生源の1/4は農耕地であることが知られています。 農地に施用される化学肥料や有機質肥料に含まれる窒素に由来するアンモニアが土壌微生物の硝化作用や脱窒作用を受け、その過程でN2Oが発生します。 私達は、特に脱窒に由来するN2O発生に着目し、N2Oを生成している原因微生物を特定しました。 さらに、水田から分離したN2Oを除去する能力が高く、しかも植物の生育促進効果を示す脱窒菌を用いて、畑土壌からのN2O発生を削減し作物の生産性を向上する微生物技術を開発しました。 また、技術開発の過程で、土壌動物の機能を活用した新しいN2O発生削減手法を見出し、実用化技術としての確立・普及を目指しています。 さらに、土壌動物の機能をN2O発生削減だけでなく、土壌病害の抑制に応用することを目指して研究を進めています。(画像はクリックで拡大)
1と2の研究課題はこれまでに進めてきた下記の研究を基盤としています。

水田土壌のオミクス解析(2010年~現在)

土壌生態系には多種多様な微生物が生息し、物質変換機能の主要な担い手となっています。これまでの微生物の分離培養や特定遺伝子群に焦点を当てた土壌微生物研究によって、その多様性の把握や、土壌の理化学性や環境の変化と微生物機能変動の関係について調べられてきました。 私達は、従来の研究アプローチに加え、「メタゲノム・メタトランスクリプトミクス」(培養を要しないで環境微生物相のゲノム情報や転写機能遺伝子情報を丸ごと解析する手法、オミクス解析と総称)を導入しました。 この新しいゲノム科学の手法により、土壌微生物群集構造解析の飛躍的な高度化や、機能遺伝子群の格段に詳細な全体像把握が可能になり、農業生産や地球環境保全における土壌生態系の役割の理解と生態系機能向上につながる技術開発が期待されます。 私達は、日本が世界をリードしてきた研究対象である水田土壌のオミクス解析を世界に先駆けて実施して水田の物質動態や酸化還元過程を担う微生物基本構造と遷移を網羅的に解明し、さらなる研究分野の先導を進めています。

水田土壌の脱窒を担う微生物の群集構造と機能の解明(2006年~2017年)

水田は温室効果ガスでありオゾン層破壊作用も有する一酸化二窒素(N2O)ガスや、地下水汚染と富栄養化につながる硝酸の溶脱が少ない環境保全型の農耕地です。 これは水田土壌においてN2ガス生成型の脱窒反応が活発であり、硝酸やN2Oが除去されることに由来しています。 水田土壌の脱窒反応が見出されてから110年が、土壌表層-下層における一連の硝化-脱窒反応が発見されてから80年が経ちますが、脱窒反応を担う微生物についてはブラックボックスのまま解明が進んでいませんでした。 私達は土壌DNAやRNAの解析に基づく分子生態学的な手法や、私達が開発したシングル・セル分離法を用いてこのブラックボックスをこじ開け、水田で活発に脱窒を担っている微生物群を特定し、その機能と生態を明らかにしました。(画像はクリックで拡大)
3土壌におけるリン可給性向上のための基盤研究(大塚)
リン肥料の原料であるリン鉱石の採掘可能年数は、あと90年ほどと見積もられています。日本はリン鉱石の全量を輸入に依存していることから、日本における持続的な農業生産のためには、畑地におけるリンの効率的な利用技術の開発が必須です。 土壌中では、主に微生物の作用により、無機態リン酸、有機態リン酸、および微生物バイオマスリン酸の間でリンの形態変換が起こります。このような背景から、微生物の働きを利用して畑土壌中リンの可給化を増大するための土壌環境要因の解明を目指しています。 また、微生物がリン源としての有機態リンや無機態リンをめぐってどのような利用戦略をもつのかについても、明らかにしたいと考えています。
4土壌微生物の群集構造形成メカニズムに関する研究(大塚)
土壌細菌は、土壌中での生育量と代謝能の多様性を考慮すれば、陸域の物質循環の鍵を握る主役の一つと位置づけられます。 土壌には、その環境や利用形態に応じて、ある程度特徴的な細菌群集構造(分類組成)が形成され、またその構造は非常に安定であることが知られています。 土壌細菌には、Proteobacteria門やFirmicutes門の細菌のように、一般に(すべてではないものの)高栄養性で増殖の早いグループもあれば、Verrucomicrobia門やAcidobacteria門、Planctomycetes門の細菌のように、一般に低栄養性で増殖の遅いと考えられるグループもあります。 しかし、後者のような“slow grower”も、様々な土壌に一定割合で生息しています。また、土壌環境がいったん撹乱されて群集構造が乱れても、前者のタイプも後者のタイプも徐々に回復してゆく事例が示されています。 これらのことから、土壌には一定の細菌組成を維持するメカニズムがあると考えられます。この細菌群集構造の安定性は、土壌の環境保全機能にとってきわめて重要である反面、有用微生物を土壌に投入しても定着せず、期待通りの機能を発揮させにくいことと密接な関係があります。 このような土壌微生物の群集構造が決定されるメカニズムを明らかにし、さらには、土壌微生物の多様性や機能の制御のためには何が必要であるのかを知る手がかりを得たいと考えています。
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